更年期と仕事、どう両立する?

体調の波と付き合いながら働く私たちの工夫

大事な書類を作成中、突然顔が火照り、滝のような汗が止まらなくなる。電話応対中に、さっきまで覚えていた内容が突然頭から消えてしまう。些細なことでイライラして、同僚にきつく当たってしまい、後で激しい自己嫌悪に陥る。

これまでコツコツと仕事をこなしてきた40代後半の女性たち。それなのに突然、「自分じゃない誰か」になってしまったような感覚に襲われることがあります。

「これって、もしかして更年期? でも、職場でそんなこと誰にも言えない……」

あなたも今、そんな孤独な悩みを抱えていませんか? この記事では、更年期と仕事の両立に悩む女性たちに向けて、「更年期ロス」の実態と、体調の波と付き合いながら働くための具体的な工夫をお届けします。

目次

書類作成中の突然の汗、止まらない動悸―「私、どうしちゃったの?」

これまで当たり前にできていたことが、突然できなくなる恐怖。更年期の不調は、身体的な辛さ以上に、精神的なダメージを私たちに与えます。

オフィスの空調は快適なはずなのに、自分だけ顔が真っ赤になり、額から汗が滴り落ちる(ホットフラッシュ)。パソコンでの作業中、手が震えてマウスが上手く操作できず、動悸が止まらない。

「大丈夫ですか?」と聞かれても、「更年期なんです」とは言えず、「ちょっと暑くて……」とごまかすしかない。そんな経験はありませんか?

夜は何度も目が覚め、睡眠不足のまま出社する毎日。集中力が続かず、単純なミスを連発してしまう。「こんなはずじゃなかった」と自分を責め、自信を喪失していく悪循環に陥ってしまうのです。

【ケーススタディ】48歳事務パート・田中由美子さんの「見えない不調」

田中由美子さん(48歳)は、地元の小規模な建設会社で一般事務として働くフルタイム社員です。夫(52歳・会社員)と、大学1年の長男、高校3年の次男の4人家族。子どもたちが手を離れ始めた今、フルタイムで働きながら家事もこなす日々を送っています。

由美子さんの仕事は、請求書の作成、電話応対、データ入力といった一般的な事務作業。会議やプレゼンはなく、毎日コツコツと裏方を支える役割です。「派手な仕事じゃないけれど、私は私の仕事をちゃんとこなしてきた」そんな自負がありました。

異変を感じ始めたのは、47歳になった昨年のこと。「仕事も家事も今まで通りこなしているのに、なんだか最近、疲れが取れないな」と感じていた矢先、ある日の仕事中に事件は起きました。

請求書をExcelで作成していた時のこと。いつもならスラスラと打ち込めるはずの数字が、何度確認しても間違えている。集中できず、同じ行を何度も読み返す。「おかしい……いつもこんなことないのに」。パニックになりそうになる自分を必死で押さえました。

「あの時の不安は忘れられません。トイレに駆け込んで、震える手で『集中力低下 40代』と検索しました。そこで初めて『更年期障害』の可能性に気づいたんです」

■ 由美子さんが感じていた更年期症状

  • ホットフラッシュ: 1日に5〜6回、突然の発汗と顔の火照り
  • 集中力・記憶力の低下: 資料の内容が頭に入らない、人の名前が出てこない
  • 感情のコントロール不全: 突然イライラしたり、悲しくなったりする
  • 不眠: 夜中に2〜3回目が覚め、その後眠れない
  • 慢性的な疲労感: 週末に休んでも疲れが抜けない

「私、もう仕事ができなくなってるのかもしれない……」

由美子さんは、得体の知れない恐怖に震えていました。

40代女性の約半数が経験する「更年期ロス」とは

由美子さんのようなケースは、決して珍しいことではありません。これは「更年期ロス」と呼ばれる、深刻な社会課題なのです。

■ 更年期とは何か?

更年期とは、閉経を挟んだ前後5年、合計約10年間の期間(一般的に45〜55歳頃)を指します。この時期、卵巣機能の低下により女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少し、自律神経のバランスが乱れることで、身体的・精神的な不調が現れます。

■ 「更年期ロス」の実態

NHKなどの調査によると、40代以上の働く女性の約47%が更年期症状による仕事のパフォーマンス低下を実感しています。さらに、そのうち約20%が「離職を考えたことがある」と回答しています。

更年期離職による経済損失は、年間で約6,300億円とも試算されており、企業にとっても、働き手である女性にとっても、看過できない問題となっています。

■ なぜ職場で言えないのか?

しかし、多くの女性は職場でこの悩みを打ち明けられません。

  • 「更年期」という言葉に対するネガティブなイメージや抵抗感
  • 男性上司や若い同僚に理解されないのではないかという不安
  • 「弱音を吐いたら評価が下がる」「重要な仕事を外される」という恐怖
  • 「甘えているだけだ」と思われたくないというプライド

こうして一人で抱え込み、限界まで我慢して、結果的に退職を選んでしまうケースが後を絶たないのです。

「もう辞めるしかないのか…」追い詰められた由美子さん

由美子さんもまた、誰にも相談できずにいました。夫に話しても「疲れてるだけじゃない?」と軽く流され、息子たちは受験や就活で忙しく、母親の不調に気づく余裕もありません。「仕事ができない自分」を責め続け、退職願の下書きを書く日々。

そんなある日、給湯室で同期の女性に「田中さん、最近顔色悪いけど、どうしたの?」と声をかけられました。張り詰めていた糸が切れ、由美子さんは思わず涙を流してしまいました。

「実は……」と事情を話すと、同期は驚いた顔で言いました。
「えっ、嘘でしょ? 実は私もなの。ホットフラッシュがひどくて、漢方飲んでるんだよ」

その瞬間、由美子さんは深い安堵感に包まれました。「私一人じゃなかったんだ」。その気づきが、彼女を再び前へと動かす力になりました。

由美子さんが実践した「更年期と仕事の両立」5つの工夫

「辞める前に、できることは全部やってみよう」。そう決意した由美子さんが実践した、5つの具体的な工夫をご紹介します。

工夫1: 婦人科を受診し、治療を始める

「更年期くらいで病院なんて」という思い込みを捨て、更年期外来のある婦人科を受診しました。医師と相談し、減少した女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法(HRT)」と、体質に合った漢方薬の服用を開始。

治療を始めて1ヶ月ほどで、ホットフラッシュや不眠が劇的に改善。「もっと早く行けばよかった」と由美子さんは言います。

工夫2: 上司に「更年期」を開示する

勇気を出して、まずは話しやすい女性の人事部長に相談しました。「実は私も経験者なの。辛い時期よね、言ってくれてありがとう」と理解を示してくれました。その後、直属の男性上司にも事実を伝え、体調不良時の配慮をお願いすることができました。

工夫3: 働き方の調整(小さな工夫の積み重ね)

  • 集中タイムの設定: 比較的体調の良い午前中に重要な事務作業(請求書作成など)を集中させる。
  • 休憩の確保: ホットフラッシュが出たら、無理せず少し休憂する。
  • 環境整備: デスクにUSB式の小型扇風機を設置し、体温調節。
  • メモ魔になる: 記憶力の低下を補うため、些細なことでもメモを取る習慣を徹底。

工夫4: 生活習慣の見直し

睡眠の質を高めるため、寝る前1時間のスマホ断ちを実行。朝の通勤時に一駅分歩く(ウォーキング20分)ことで自律神経を整えました。また、夕飯作りの際に女性ホルモンに似た働きをする大豆製品(納豆、豆腐、豆乳)を意識的に家族の食卓に取り入れるようにしました。

工夫5: 同じ悩みを持つ仲間とのつながり

同期との会話をきっかけに、社内で非公式の「40代女性ランチ会」を発足。情報交換や辛さを共有する「ピアサポート」の場が生まれ、「一人じゃない」という安心感が心の支えになりました。

1年後、由美子さんと職場に起きた変化

適切な治療と周囲の理解、そして働き方の工夫により、由美子さんの体調は徐々に安定していきました。仕事のパフォーマンスも回復し、以前のような笑顔が戻ってきました。

それだけではありません。由美子さんの行動がきっかけとなり、職場にも変化が起きました。

  • 上司の理解が進み、体調に合わせたフレックス制度の活用がしやすくなった
  • 人事部が「女性の健康課題とキャリア」に関する研修を導入
  • 男性社員の間でも「更年期」への理解が少しずつ広がり始めた
  • 夫が家事を手伝うようになり、「無理しないで」と声をかけてくれるようになった

現在、由美子さんは社内の「ウェルネス推進委員」として、誰もが働きやすい職場作りに貢献しています。

企業と社会に求められる「更年期支援」

2026年に向けて、更年期支援(フェムテック含む)は企業の重要な経営課題となっています。

■ 先進企業の取り組み事例

  • 更年期休暇・休職制度の導入
  • オンライン医療相談窓口の設置
  • 管理職向け「更年期リテラシー研修」の実施

■ 2026年注目のフェムテック

スマホで体調を記録・管理するアプリや、オンラインで専門医に相談できるサービスなど、テクノロジーを活用した支援も急速に普及しています。これらを活用することで、より自分らしい働き方を維持できる時代になりつつあります。

更年期と上手に付き合うための5つのヒント

最後に、今辛い思いをしているあなたへ、5つのヒントをお伝えします。

  1. 記録する: いつ、どんな症状が出るか「体調日記」をつける(受診時に役立ちます)。
  2. 頼る: 一人で抱え込まず、早めに婦人科を受診する。
  3. 開示する: 信頼できる上司や同僚、家族に状況を伝える。
  4. 調整する: 「完璧」を手放し、今の自分にできる働き方に調整する。
  5. つながる: 同じ悩みを持つ仲間と話し、共感し合う。

更年期は「終わり」ではなく、新しい人生の「始まり」

更年期は、誰にでも訪れる自然な身体の変化です。そして重要なのは、「症状は必ず落ち着く時期が来る(永遠には続かない)」ということです。

この時期を乗り越えることは、決して「衰え」を受け入れることだけではありません。自分の体と向き合い、働き方を見直し、これからの人生をどう生きたいかを問い直す、大切な転換期(トランジション)でもあります。

更年期というトンネルを抜けた先には、経験と知恵を兼ね備えた、より強くしなやかな「新しい私」が待っています。

■ あなたも感じていませんか?更年期セルフチェック

以下の症状に2つ以上当てはまる場合は、我慢せずに婦人科の受診をおすすめします。

  • □ 突然、顔が熱くなり汗が出る(ホットフラッシュ)
  • □ 以前より集中力や記憶力が低下したと感じる
  • □ 些細なことでイライラしたり、落ち込んだりする
  • □ 寝つきが悪い、または夜中に何度も目が覚める
  • □ 休んでも疲れが取れない、だるい
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