福岡・唐人町で美容室「n」を営む紙田尚美さんは、今年で独立10年目。お客様に、こう声をかけることがある。「すっぴんで来てください、緊張しなくていいですよ」と。そう言えるようになるまでには、いろんな経験が必要でした。床屋でショートにされ続けた幼少期から、修業時代の挫折、10数年勤めたサロンでの葛藤、そして35歳での独立。数字を追い続けた日々を経て、感謝を軸に仕事をするようになるまでのお話を伺いました。
紙田尚美さんの経歴とプロフィール
MiiCanvas編集部まずは、美容師を目指したきっかけを教えていただけますか?



母が美容室へ連れて行ってくれなくて、ずっとおじいちゃんについて床屋へ行っていたんです。私、髪が多いんですけど行くたびに男の子みたいなショートにされていて、きっと扱いにくいんだろうなってずっと思っていたんです。
ある時、テレビで美容師さんの世界を見て「こういう仕事もあるんだ」と。自分みたいに髪で困っている人を助けてあげたい、というのがきっかけだと思います。子供ながらに(笑)。
ただ、父がものすごく反対していて。ちょうど進路を決める時期に、九州で美容師の事件があって。「こんなところに娘を行かせたくない」ってずっとダメって言われていたんです。でも、私が折れなかったから「じゃあ行きなさい」って。すんなり許してもらえました。
修業時代と、一度辞めた理由



最初の職場はいかがでしたか?



今とはまるで時代が違って、今は「スタイリスト」と呼ばれていますけど当時は「先生」。そして派手な方が多くて、上下関係もかなり厳しい。口も手も出る時代でした。「向かないかな」と思って、一度そこを辞めてしまったんです。
フリーターみたいな感じで1年ぐらい過ごしていたんですが、やっぱり戻りたくて。「父があんなに反対したのに美容師になったんだから、一人前になるまでは続けよう。」って思い直して、2軒目のサロンへ。そこは10数年続けました。意外と転々としなかったですね。色々ありましたけど、やっぱりなりたくてなったからだと思います。
「このまま、ここにいていいのか」背中を押された日
―独立を決めたきっかけは何でしたか?
紙田さん:2件目に勤めたサロンは規模の大きなお店だったので、数字と向き合う場面も多くて。オーナーとスタッフの間に立つような役回りも多かったんです。誰かが「辞めたい」と言えば話を聞いたり、引き止めたり。でも本人の気持ちは変わらないから、最後は「したいようにしなさい」って送り出して。そんなことを繰り返しているうちに、「私、いつも送り出す側にいるな…あれ、このままずっとここにいていいのかな?自分の気持ちに蓋をしたまま働き続けるのかな?」ってふと思ったんです。
そしてちょうどその頃、スタイリストになったばかりの後輩が辞めることになって。その子を見送ったときに、それまで見て見ぬふりをしてきた自分の気持ちが、一気にあふれてきました。
「モヤモヤしたまま働いていても、そういうのってお客様に伝わるし、失礼だな」って思って。「じゃあ、自分でやってみようかな」という気持ちが起点になりました。主人に相談したら「いいんじゃない?好きなようにしたら?」って言ってくれて。
退職から2ヶ月、何もわからないままオープン



独立されるまでの経緯を聞かせてください。



辞めると決めてから、1年くらい心の中で計画をしつつ物件も見ていました。前のお店が西新だったので、ちょっと離れた所を探していて、たまたま今の場所が見つかりました。見つかった物件は間口が狭くて、外から中が見えない造りでなんですけど「見えないほうがいいかな」と思ってここに決めました。
10月に退職して、12月にオープン。確定申告も開業届も、何も知らないままのスタートで。「20日分だけでも確定申告しなきゃいけなくて、私って本当に何も知らなかったんだな」って(笑)。でも自分のお客様にとって、あまりスパンが開かないほうがいいかなと思って、辞めて2ヶ月くらいでオープンしました。
店名「n」に込めた思い





店名の由来を教えてください。



「n」はナチュラル、ニュートラルの頭文字です。「自然」が一番好きなんですよ。植物とかの自然じゃなくて、「自然に来てもらうこと」の自然。だから「すっぴん」でも全然いいですよとお伝えしてます。確かに「似合わせ」するのにはお化粧をしていた方がいいんですけど、でもそうやって頑張ってくるのが美容室なのかな、とか思ったりするんです。堅苦しく思わなくていいような美容室にしたくて。
美容師さんってちょっと強いイメージがあるじゃないですか。美容部員さんんみたいな方も多かったり。美容室って入りにくいと感じる方も多いと思うんですよ。そういう雰囲気にはしたくないから、「普通の人」みたいな感じを目指しています。言いたいことを言ってもらえるような雰囲気で接したいなと心がけています。
集客も、美容ポータルサイトとか好きじゃないんです。小さなサロンなので、HPとかチラシとかで知ってもらう方がいいなって思ってます。近隣に定期的にチラシを配布して認知してもらう。アナログなんですよ(笑)。SNSも苦手です。数字を気にする時間をお客様に向き合う時間にしたいんですよね。
あと、新しいメニューや機器を入れるかどうか迷うことがあるんですけど、以前、夫がこんなことを言ってくれたんです。「いや、今のお客様がそれを望んでいないから、お前のところに来ているんでしょ。だから、今のままでいいんだよ」って。それで「わかった。じゃあ今のままのものをちょっとレベルアップしたらいいんだね」って思えたんです。だからお客様のことを思い浮かべると、「いる」「いらない」というのが出てくるからそこはぶれないようにしていきたいなと思っています。
―他に特徴はありますか?
私自身が肌が弱いから、あんまり強いものは入れてないです。お客様の年齢層としては40代以降の方が多いので、長い目で見た時に髪の負担にならない物の方がいいかなと思っています。そういう視点でメニューを考えています。でも全てが肌に優しいものだと、施術的にちょっと足りないこともある。そこは柔軟に、科学的なもので綺麗になるものも入れています。前の職場からのつながりでメーカーの方とも仲が良いので、「それ入れた方がいいよ」とか「いいと思う」とか言ってくださる。その辺はやっぱり、「人とのつながりを大切にしていく」ことだと思います。
独立してはじめて、感謝の意味がわかった



お仕事に対する価値観を教えてください。



10年前は、感謝がなかった気がするんですよね。当たり前に数字を売っていたから。今、自分でお店をしていて、「当たり前にお客様が来られる状況って、当たり前じゃないんだな」とつくづく思います。いつも本当に感謝しています。
嫌なことへの受け止め方も変わりました。以前はイライラしていたことも、今は「自分の力量が足りなかったのかな」と考えるようになりました。思考が変わりましたよね、10年前と全然違います。
―他にも目標などはありますか?
もう少し落ち着いてきたら、福祉施設などに行ってカットなどの施術をする「訪問美容師」をやりたいです。いつになるかはかは分からないですが、それはやりたいと思っています。
仕事以外の活動について
―お休みの日はどのように過ごされていますか?
紙田さん:月に1回、地域の公民館で高齢者の見守り活動に参加しています。民生委員さんが運営している集まりで、来られたおじいちゃんおばあちゃんにお名前を書いてもらって、お茶を出したり。独居の方が外に出るきっかけをつくる場所で、来られなかったら「あの人どうしたんだろう」ってわかる仕組みなんですよね。
あと、知人の紹介で、「放課後等デイサービス」の子どもたちへのボランティアカットも年に1回ぐらいしています。知的障がいや発達に特性を持つ子たちって、初めての場所に行くことがなかなか難しいらしくて。だったら私が行けばいいかなって。それをきっかけに地元の美容室に行き始めた子がいますよって聞くと、やっぱり嬉しいですよね。
大切にしてきた言葉





座右の銘や大切にしている言葉はありますか?



「雲外蒼天」という四字熟語が好きです。苦労の先には明るい未来がある、という意味です。挫折しても理不尽なことがあっても、続けていれば何かある、とずっと信じてきました。
もう一つは「謙虚」ですね。忘れてる時もあるんですけど(笑)。小さな事でことでイライラしちゃダメだって。自問自答ですよね。
―これから美容師を目指す方へのメッセージをお願いします。
「挫折してもとりあえず続けてみてほしい。スタイリストになってみると楽しさがわかるから。違う世界が待っていると思います」。
まとめ
「謙虚でいたい」と話す紙田さんの表情から、その言葉が本心であることが伝わってきます。床屋でショートにされ続けた少女が美容師になり、数字を追い続けたあの頃を経て、今は唐人町の暖かい雰囲気のお店でお客様と向き合っている。「すっぴんで来てください」というその言葉には、10年分の経験と、積み重ねてきた感謝の形が込められています。
会社概要
| サロン名 | 美容室 n (エヌ ) |
| 代表者 | 紙田尚美 |
| 所在地 | 福岡市中央区唐人町1-6-10-1F |
| 設立 | 2016年12月 |
| 公式サイト | https://www.n-hair.jp/ |
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